SKYEYE - AWACS, MAR 20 2005


 管制官である私が、ハンガーに足を向ける。違和感のある光景だと、回りの者は思うだろう。
 彼のいる場所は大体決まっている。機体の整備中はまずハンガーだ。入口から辺りを見回せば、やはり隅の方で座っている彼が目に入る。耐Gスーツであること以外は、私服や制服のときと変わらない。黒猫三匹にじゃれつかれている、穏やかな風貌と印象の男。
「―――メビウス1!」
「うん?」
 声をかければ、軽い驚きを現すように目を少し見開いて、こちらを見た。
「なに?」
「いや…、耳に挟んでいるかも知れないが、次はいよいよストーンヘンジ攻略になるようだからな。様子を見にきたんだ」
「優しいな」
 口元に、僅かに刻まれる笑み。その口元、「彼女」に本当によく似ている。
 肩口に掴まる黒猫を撫でながら、「けど」と彼は言った。
「心配ないよ。怖気づくなら最初の作戦のときにやってる。今までだって何度も砲撃されたろう? 懐のが安全そうだ」
「…なら、いいんだが」
「そんなに心配か?」
「ああ」
「身代わりがいなくなるから?」
 さらりと出たセリフに、思わず口を噤む。見かけこそ穏やかだが、この男、時折こうして心臓を貫くようなことを言う。
 だが―――その言葉は彼自身にも自虐的なもののはずだ。
 私がメビウス1の向こうに見てしまっている彼女は、彼の最愛の妹だ。その彼女の死を、自分で再確認しているようなものだ。
 同時に、私に逃げや誤魔化しを許さないと、突き付けている。もっとも、今さら誤魔化しようがない。行為の最中には、彼女の名を呼んでしまったこともある。今となっては後悔の種だが、彼を何度か抱いている事実と、これからもするだろうという私の中の頭をもたげる欲望が、後悔ではまだまだ終わらせてくれないことを示している。
「少なくとも」
 吐息をついた後に、彼はそう切り出した。黒いような青いような、微妙な色の目が、下からこちらを見上げてくる。
「この戦争が終結するまでは死なない。まあ、根拠はないが」
「気遣いありがとう、と言えばいいか?」
「その言葉が本心なら」



SKYEYE - AWACS, APR 02 2005


 確かに彼は、死ななかった。
 4割の損害を覚悟していたストーンヘンジ攻略。それすらも、彼はやってのけた。SAMやAA砲に機体を傷つけられても。
<<こちらスカイアイ、レーダーでもストーンヘンジの破壊を確認した>>
<<まいったぜ、メビウス1が全部もっていっちまった>>
 友軍が呟く。だがその言葉には、隠しきれない嬉しさが滲んでいる。
 何しろ、大陸の端まで攻撃の届く超兵器を、これでようやく、恐れずに済むのだ。大陸の空が戻り、何より嬉しく思うのは、私のような管制官以上に、彼ら、パイロットだろう。
 だが、
<<いや…ただでは帰してもらえないらしい。5機の機影が、マッハ2で接近中>>
<<スカイアイ!>>
<<大丈夫だ、こっちのエースはやつらより速い。交戦を許可する!>>
 ふ、とメビウス1が笑う気配が無線越しに聞こえた。
 綺麗な編隊を組んでいる5機。黄色中隊!
 Su-37の群れに突っ込むメビウス1のF/A-22A。呑まれるか心配し始めたところで、互いに放ったミサイル!
 直撃したミサイルと、左翼を掠めたミサイル。ラプターの姿を確認したところで、知らずに飲んでいた息を吐きだした。
 間違いない、彼は英雄になる。
<<黄色中隊機、1機の撃墜を確認した! 我々の完全勝利だ!>>
 転進を余儀なくされた中隊をレーダーに捉えながら、そう言ったが、
<<まだだ>>
 痛いくらい冷静なメビウス1の声。
 ごう、と空を切り、ラプターが黄色中隊を追う。
<<メビウス1…? 待て! 任務は完了した、帰還しろ!>>
<<いいや! まだいる! まだ殺す! 殺す! 殺す! 殺す!!>>
<<メビウス1!>>
 背後からのミサイルに、もう一機、少し頼りなげで身軽な黄色の機体が空中で破裂した。しかしメビウス1も左翼をいくらか食われている。そんな中バランスを取って逃げる的を撃ち落とそうとする、その執念。
 今までは、穏やかな―――だと思っていた―――彼の性質に隠れて見えなかった、激しい感情が惜しげもなく晒されている。彼のそれに、指がかたんと、震えてパネルに触れるほど、私は、
 恐怖していた。








トランスプレイ
KILL! KILL! KILL!




黄色の4…(´・ω・`) 二機目が黄色の4ということにしておきます。