SKYEYE - AWACS, SEP 24 2006


 彼が帰ってきたことに、私の心は躍らずにはいられない。
 一年ぶりだ。私の義兄にして―――英雄が帰ってきた。
 彼の作戦遂行能力は、一個飛行隊に相当するという。
 それを笑う者は一人もいなかった。私もただ、「ああ、なるほど」と思った。
 あの機動と戦果を見たものならば誰でも、そう思うだろう。それだけ彼の動きは精練されていた。いや、最初はまだ荒っぽさがあったが、それが次第に昇華していったのだ。その様子を目の当たりにしていた私には、わかる。
 一年の空白を十二分に埋めてくれるような、胸の高鳴り。抑えられない。
 平和と同時に姿を消した彼を、どれだけ探しまわったことだろう。そして絶望という文字を何度噛みしめたことだろう。
 それがまた、戦いの舞台でも、再会を喜ばずにはいられない。
<<「自由エルジア」を武装解除せよ。出撃>>
<<了解、管制官。メビウス1、出撃>>
 機体の中にいる彼が言う。この声の懐かしさ。一年、たった一年だというのに、まるで十年も二十年も待ったような懐かしさ。
 しかし私は。懐かしい彼の声だけでは到底満足できなくて。「このまま軍に残ることを希望したい」「また逢おう」なんて。指示された、メビウス1への白々しい別れの言葉を告げた後、彼を捕まえるためにそこを飛び出した。


 ハンガーに、一直線に走った。技術者らを押しのけて、彼の愛機にだ。
 失踪した彼、しかし機体はきちんと整備され続けた。これが今回の作戦で大きく役に立ったというわけだ。
 見上げる機体、しかしその中には誰もいない。
「……!? 間に合わなかったのか!」
「スカイアイ、どうしたんだそんなに…」
「彼は…、メビウス1は!?」
 話し掛けてきた中年の整備士を捕まえ、肩を思いきり掴む。整備士は戸惑った様子で、
「あ、ああ…どこだろうね」
 と、どもりながら答えた。周りをぐるりと見渡すと、他の整備士らも一様に首を振る。ただし、横に。見ていないということだ。
 制服のまま、私はステップに足をかけた。途端、整備士がぎょっとした顔で引き留めにかかる。
「お、おいスカイアイ、危ないからやめておけ!」
「何を危ないことがある! どうせ…、俺の顔が見れなくて隠れてでもいるんだろう! 残念だったな、あんな言葉は様式美だ! 言えと命令されたまでのことだからな!!」
 自分で思っていたよりも、私は様々なものが限界に達していたらしい。ステップを駆け上がり、コクピットの中を覗き込む。
「…!?」
 目を見開いた。そこには人間の姿はなかった。ただ、足を納める部分は巨大な鉄の塊に支配されていた。伸びる多数の配線コード。何かの機械―――コンピュータだと直感が告げる。
 とても人が乗れるスペースなどない。どこに彼はいたんだ。
 まるで―――最初から私が支援したこの機体の中には、「誰もいなかったようではないか」。
「―――レウィン?」
 ぽつりと、なぜこの時、彼の名前を呟いたのか分からない。
 けれど、そう呼んだのに応えるように、突如エンジン音が響き渡った。
 この機体からだ。ステップが震え、しがみつく直前に、鉄の箱が振動しているのが見えた。
 振動は数秒で収まり、しかしその場にいる全員が機体を注視していた。操縦席には誰もいないことを、この場の全員が知っていたから。
「…スカイアイ」
 驚き、呆けた後も機体にしがみついていた私に、とある整備士が言った。
「基地司令が、お呼びです」

 呼び出しを喰らった私に、基地司令はこう、言った。
 我々には、英雄が必要だ。こんな事態に陥ったときのために。

 たとえ、身体がなくても、

 ―――半端無理やり、抱いた時の彼を思い出す。あの肌の熱さを。

 命に従い、ただ敵を撃ち落とす。

 ―――静かなふりをして、復讐のことばかりを考えていた、君の目を。

 英雄の実力と、その名の持つ力が。
 だから、我々は、

「彼の脳を、―――使ったと?」

 私の声は、かすれていた。






理不尽なエンディング
Itself unreasonable world Nante.