風が吹いてくる。
強い、強い風だ。
――あの日もこんな風が吹いていた
ぷかり、と煙草を吹かしながら狼は思う。
『…私を、食べに来たのか』
『逃がしゃしねぇぜ?』
こちらに背を向けたまま、穏やかに問いかけてきた聖騎士に、ケラケラと笑って舌なめずりすれば、かすかに笑う気配が聞こえてきた。
『気でも狂った…か?』
さすがに驚いて問いかけると、彼は静かに首を振り、狼の名を呼んだ。
『――……だろう?』
この至近距離なら、背を向けていても相手がわかる。まして聖騎士と狼とは、六日間もの間寝食を共にしてきた間柄だ。
『気づいてたンか?』
『いや』
嘘でも「気づいていた」なんて格好をつけたりしないこの男を、狼は結構気に入っていた。
それでも。
『ワリィな、あんたで最後なんだ。あんたを食わなきゃ、俺も死んじまうんでな』
『そうだな』
何を考えているのか。六日共に過ごしたとて、彼の考えはわからない。