SKYEYE - AWACS, SEP 20 2004


 目を閉じれば、瞼の裏で彼女が蘇る。
 なのになぜ、顔だけがどんどん、思い出せなくなっていくのだろう?
「買ってやろうか」
 いつだったか、街中で彼女の目が追いかけていたものを見て、そう言ったことがある。すると彼女はそういうとき、決まって被りを振って、こう答えるのだ。
「今はいいわ」
「君は遠慮が過ぎる」
「そう?」
 少し困ったように笑って言う、
「でも、そうね。なら、私の誕生日にはあれをお願い」
 それが彼女の口癖。


 煙くささに目を覚ますと、隣で横になっている男が煙草を吹かしていた。メビウス1。
 辺りはまだ夜中らしく、暗い。そんな中で、煙草の火だけが見える。
「…吸う方だとは知らなかった」
「起きてたのか」
 相変わらず、静かで流れるような声が返ってきた。吸って、ゆっくり煙を吐いてから、彼は続ける。
「滅多に吸わないけど、…ああでも、最近は少し頻度が増えたかな」
 煙草を持つ手が、少し震えている。
「案外、人間って臆病なもんだね。震えが止まらないんだ。もう作戦終了から何時間経ってるか分からないのに。先が思いやられるよ」
 自分のことを、まるでひとごとのように乾いた笑いで話した。
「怖かった、のか?」
「たぶんね」
 また、吸って、吐いて。
「不健康を金で買うようなもんだと思うけどね。スカイアイ、吸ったことは?」
「いや、ない」
 寝煙草なんて危ない、と言いかけた私に、そう問いかけてきたため、とっさに答えた。暗闇の中、煙草を持たない方の彼の手が、彼自身の首にかかる。
「自分で首を絞めた時と、同じ感じなんだ。手を離して息ができるようになった開放感に似てるかな。頭がほどよく気持ち良くなって、体温も下がって―――もうこのまま目が覚めなくてもいいかもって思う」
「…レウィン」
「そう思ったところで、ああでもスクランブルで叩き起こされるんだろうな、って現実に帰るんだけどね。それにまだ、しなきゃならないこともある」
 喉で笑った彼が、煙草を傍の灰皿で消した。その手を捕まえ、指を絡める。
 喫煙は血管が収縮するというのを思い出し、私は少し目を細めた。少し骨ばっていて、節くれのある彼の手は、冷たかった。








ある夜のはなし
Comfort of Sleep