ALVIN "CHOPPER" H DAVENPORT, NOV 27 2010


「なあ、オイ、マジか」
 立ち上がり、目の前に歩み寄るブレイズの姿に、思わずチョッパーはそう言った。待て、落ちつけと言わんばかりに掌を相手に向けるが、まるで意味がない。
 あまり強くない酒を喰らった所為か、ブレイズの顔はすっかり酒気を帯びて赤くなっている。目が据わっていることに恐怖を覚えざるを得ない。
 少しばかり投げやりなこの隊長だが、本当は生真面目な人物だということもよく知っている。決して冗談の目ではなかった。
 チョッパーの問いかけには答えず、制服の襟元に指を掛けて服を緩めたブレイズの手が、そのまま首元のボタンをひとつ外した。追い詰めるようにずんずんと近寄り、二段ベッドまで追い詰められてはどうしようもなく、下段に座りこむ形となる。
 これはまずいと両手を挙げて、降参の意を示す。
「分かった、俺が悪かったって。今のはあれだ、ノーカンだ。な?」
「お前はもう知った。ちゃんと弱みを握る。諦めろ」
「おいおい、なんか饒舌じゃね?」
「誤魔化すな」
 がっしりとチョッパーの肩を掴んだブレイズが、そのままベッドの上に自分より背の高い大男を押し倒す形となった。膝をベッドにかけて乗り上げ、チョッパーのツナギを一気に下ろす。服の中に手を差し入れる様を見て、さすがに確信する。
「お、い……っ!」
「煩い、黙れよ」
「俺ぁ掘られるのなんざ御免だぞ!」
「じゃ逆ならいいのか」
「馬鹿いって……!」
 途中で言葉がうめき声と共に霧散する。下着の中に伸ばされた手が無遠慮にそれを掴み、やわやわと揉み始めたのだ。
 あの副司令官としていたことを、こいつはしようとしているのだ。それを意識しただけで、まだささやかな動きにも関わらず反応してしまう。
 くっ、と喉で笑う声に顔を上げると、酒の抜けていない赤い顔が笑っていた。
「アルって呼んでやろうか」
 シャワー室帰りでまだ濡れているチョッパーの髪を、ブレイズが軽く掴んで引っ張った。勢いに押されてたまるかとブレイズに言い返す。
「俺が密告したら、ウォードッグ1は男を押し倒すような奴だって知られるぜ」
「逆に、ダヴェンポート大尉は男にこれを握られて喘ぐような人間だとも広めてやる」
 ぐりっと指先で先端を弄り倒しながら、目の前のブレイズは目を細めた。
「けど弱味なんていうのはそれだけじゃない。……なあチョッパー、お前はいい奴だよな」
「んだ、急に」
 声が妙に柔らかくなり、ブレイズの口元が僅かに上がる。
「言ったら困るのは、お前なんだ。分かるだろ?」
 言いたいことはすぐさま分かった。この戦況の中だ。スキャンダルが持ち上がったところでもみ消されるかも知れないが、彼やハミルトン大尉を取り巻く周りの視線は変わってしまうだろう。そしてウォードック隊もその余波を受けることは確実だ。今だって、バートレット元隊長が見つかっていないことで、周りからの風当たりは強くなる一方なのだから。
 チョッパー自身だけではなく、ナガセやグリムの事を考える。ブレイズとハミルトンの関係が明るみに出たとしたら。
(あいつらがどんな顔するか……考えたくもねえ)
 そう思ってしまう、そんなチョッパーの性格をブレイズは計算しているのだ。そんな情けを弱みとして握られてしまっては、逆らう術がないのも事実だった。
 ブレイズの顔も、「そこまでして暴露したくはないだろう?」と語っている。この隊長と副指令官がどんな関係であっても、知らぬ顔をしていれば何もこちらには被害はないはずだ。自分が黙ってさえいれば。
 ついでに、握られたそれがどうしようもなく自己主張し始めているし。こいつツラは悪くねえし。目瞑ってれば結構イイかもしんねえ。そんなことを考え、チョッパーはそれ以上言うのをやめた。その様子を見て取ったブレイズが、それでいいとばかりに指先で敏感なところを擦る。先端から汁が溢れ、濡れた音を部屋に満たしていく。
 馬乗りになったままのブレイズが、服を脱いで放った。酔った目のままではあったが、明らかに欲情しているのが分かった。唾液を絡めて慣らし始める彼を見て、ごくりと喉を鳴らした。
 そうして、先濡れしているチョッパーのそれを、後孔に擦りつけるようにして動かした。荒くなる吐息を自覚して、自分も彼に欲情しているのだと知る。
「……ふ、っく、……」
 息を飲み、後ろの口でそれをゆっくりと飲みこんでいく様に、視線が吸い寄せられた。蠕動を繰り返す中の感触、ずぶずぶと少しずつ入って行く様子のなんと卑猥なことか。また、どうしても視界に入る彼自身のそれが、飲みこんでいく度に快感を得るのか、先が上を向いて涙を流していく。
「っは、は……」
 奥までしっかりと納めたところで、ブレイズは肩を震わせてしばし動かずにいたが、やがて手をついて膝に力を入れ始めた。ゆっくりと引き抜き、一気に押し込む。たまらず洩れる声と水音、いやそれよりもリアルな感触が流れ込んでくる。
「あっ、ん、んっ……んっ!」
 見たことのないくらい快楽に溶けた表情はまるで別人のようだと思ったが、すぐにそうではないと思いなおす。
 いつもの、彼が。一皮剥くだけでこんな顔をする。目の前にいるのは確かに彼なのだ。
 その彼が目の前で喘ぎ、時折ぶるぶると肩を震わせた。
「……な、やべっ……て!」
「……にっ、が……?」
 息を詰めて、ようやっと吐き出した言葉に反応しないかと思ったが、相手から返事が返ってくる。同じように、切羽詰まってとぎれとぎれのそれ。
「それ以上、動いたら出……っ!」
 相手が動くことで感覚の予想がつかない所為か、出しそうになるのを止めようとブレイズの腰と尻を両の手で掴んだ。ひきつった小さい叫び声が聞こえ、中が急に締まる。身体と身体の間にある勃ちあがったそれが、白く濁った色の液体を吐きだした。きつく締めつけられる中に逆らえず、彼の中に思わず同じものを流し込む。
「っ、は……あ」
 喉を見せて己の上で達したブレイズを見上げ、チョッパーは目が釘付けになった。
 ぱらりと耳から落ちる赤い髪に、蕩けた目。うすく開いた唇から吐息が洩れる。こういうのを、とても古臭くて月並みな表現をするなら、
「…………い」
「……に?」
 聞き返したブレイズに構わず、腰を抱いて体勢をひっくり返した。驚いたブレイズの目は、繋がっているそこを少し動かしてやるだけでまた快楽に染まる。
 足を開かせるように膝裏を掴み、二、三度擦ってやれば甘い悲鳴を挙げた。
「綺麗、つったんだよ……」
 相手はそれに何の反論もしなかった。というより、出来なかった。
 揺さぶる度に青い眼から零れる涙が、まるで宝石のようで。それをもっと流させたくて、えぐるように奪うように、行為をエスカレートさせていった。



DARYL "BLAZE" RODINA, NOV 27 2010


 ぼんやりとした意識の中で、ふと反芻される記憶。
 あの時も自分はベッドの上で横になって、ぐったりとして身体がだるかった。そう、そんな中で、確かあの人にこう言ったのだ。
「……カメラマンになりたかったと、聞きました」
 なぜそう言おうと思ったのかは分からないが、ふと気づくとそう尋ねていた。金髪の後頭部が少し動いて、ん、と吐息のような返答の後にこう聞き返された。
「彼から聞いたのか」
 質問したことを咎められるかと、少しだけ思ったがその心配はなく。
 横になったまま軽く頷く。それから、余計かとも思ったがもう一言。
「……意外でした」
「カメラは好きかい」
 思わぬ問いに、しばし逡巡する。
「……好きです」
「なら、古いのを一つあげよう」
「でも」
「趣味が一つくらいは、あったほうがいい」
 別に、好きでも嫌いでもなかった。
 ただ、好きだと言ったらあなたが嬉しそうにするかと、そう思った、だけで。

 ぼんやりと目を開けば、向こう側にあるテーブルの上に置いてあるカメラが見えた。あの人に貰った古いカメラは、それでも手入れが行き届いていて、古さが返ってちょっとした貫禄めいたものを出していた。
 事に及んだ二段ベッドの下段で横になっている自分を確認する。チョッパーが後始末をつけてくれたのか、ちゃんとシャツを着ており、部屋には誰もいなかった。ベッドの上段にいる気配もない。
 あれこれと考えそうになるのを、無理やり止めた。今は何を考えてもろくなことを思いつかない気がした。そうしているうちに、とすとすと足音が響き、ドアが開く。
「……あ、起きたのか」
 入ってきたチョッパーが、どことなくばつが悪そうに視線を彷徨わせた。誘ったのも襲ったのも強要したのも、こちらのほうなのに、本当にお人よしだなとブレイズは思う。
「今、時間は?」
「日付変わったとこだ。……まあ、その。悪かったな、身体大丈夫かよ」
「おかげさまですこぶる腰が痛い」
「う……」
 はっきりと言ってやると、ますます申し訳なさそうな顔になる。「悪ぃ……」と呟いて水の入ったグラスを差し出したので、それは素直に受け取った。
「まあ、その……なんだ。ブービーよう……。たまには、俺のこと頼っていいんだぜ」
「たとえば?」
「弱音吐いてもいいし、まあ、ほら色々あるだろ」
 弱音と言われてもな、というのが正直な感想だった。誰かにそんなところを見せることがなかったため、何を言っていいのかもよく分からない。
「そういうの、よく分からない」
「んじゃあ、あれだ。手ぇ出せ」
「……?」
 ベッドの端に座ったチョッパーが手を差し出したので、訝しげにではあるが自分も差し出した。ごつごつとした硬い指先が触れ、手を握ってくる。
「こうやって、目瞑って、思いついたことを言えばいいんだよ。オフクロとよくこうしたもんだぜ。……あ、ガキんときの話だからな」
 子供だましのようにも感じたが、だまされたと思って手を握ったまま心を落ちつけてみた。
 テーブルの上にあるカメラを眺めながら、ふと何かの気持ちが形になっていく気がした。ただ、そうしているうちに少しずつ目蓋が落ちてきて、眠りに誘われる。
 眠る前にと、ぽつりと唇が動いて一言吐きだした。「なんだって?」と言うチョッパーの声が聞こえた気がしたが、二度目はもう言えなかった。






涙をおとした、君はすてき
Are you glad?