DARYL "BLAZE" RODINA, NOV 29 2010


<<こんな時になんだが、敵の第二波だ>>
 息を飲んだサンダーヘッドの声がした。
 不思議と、涙は出なかった。戦闘機が煙を吹いて落ちる光景なんて、日常茶飯事のことだ。精神がそれに慣れきっているのか。
 いいやちがう。そこに敵がいるからだ。涙を流せば、それを拭うことも敵を打ち落とすこともままならない。
<<迎撃せよ>>
<<了解>>
 指示には、すぐにに頷いた。
 いつもより力任せに操縦幹を引き、じっとHUDとにらめっこをする。
 ロックオン、Fox2、ヒット、デストロイ。
 悲しくないわけじゃない。でも俺より悲しんでいる奴が他にいる。
 涙を飲みこんでるナガセや、唇を噛みしめてるのが目に浮かぶ声のグリムに、いつになく取り乱したサンダーヘッド。隠しきれない、嗚咽になりそうな吐息。
 だから。悲しくないわけではないけど、涙は出なかった。


 デブリーフィングでチョッパーが後送されたことが告げられた。共に外に出たナガセの目は真っ赤になっており、相当泣き明かしたのが丸分かりだったが、俺もグリムも何も云わなかった。
 グリムの目も赤かったが、ナガセよりはまだ自分を保っているようにも見えた。自分の悲しみを抑えるのに精一杯でという風で、俺はそんな二人のどちらも慰めなかった。なんとなく、それはしてはいけない気がした。
 そんな二人からそっと距離を置き、基地の部屋に戻ると上着を椅子の上に放り出した。
 ひとつ、深く息をつく。
 いつものサンド島の部屋ではないせいか、まるで別の世界に迷い込んだような感覚だった。
 それは今に始まったことではない。あいつがスタジアムに突っ込んだ時から、とてもリアルな夢を見ているようだ。
 ふと、脇にある姿見に目が止まる。
 息を飲んだ。
 鏡の中の俺は、今にも泣きそうな位くしゃくしゃな顔をしていた。
 その姿を認めた瞬間、みるみるうちに目が潤んでゆく。ほんの少しの時間で、それはひどい涙目になっていて、どんどん酷くなっていった。頬を雫が伝っていく。
 ちりん、と脳裏であの鈴の音が鳴る。あれは、あの鈴は。チョッパーと交換した時、彼にあげた鈴の音だ。
 ちりんちりん。響く度にぽろぽろと雫が床に落ちる。まるでこの涙を、止めないようにしているのかと錯覚するほどに。
 俺は泣いているのだと、そこでようやく――本当にようやく、自覚した。








クリアレイン・スロウレイン
Equal Tears