DARYL "BLAZE" RODINA, DEC 03 2010


「悪魔だと、言われました」
「ふむ?」
 跪き、目の前のベッドに腰かけているハミルトン大尉のそれに舌を這わせながら、ブレイズは投げられた質問に応えていた。
 ハミルトン大尉と二人きりで密会をする際は、場所は大概、大尉の私室や執務室だが、することはその時々で違った。
 何度も行為を重ねて覚えたのは、大尉はこれが――身も蓋もないことを言うと、口淫が――好みだということだ。大尉と二人きりになると、こちらの言動を試されているような緊張感を覚えるが、そんな中で迷った時はこうして跪いた。
 手を使うなと言われたので、仕方なく両の手を椅子やベッド、或いは大尉の腿の上に置いてそれを咥えた。手で支えていないために、少々それが逃げてしまうが、その様子すらも大尉は愉しそうに見ていた。
「悪魔、か。ああ、そのまま奥まで咥えなさい」
 優しげな声での命令に、少しずつ、つるりと奥まで咥えこむ。それは会話が出来ないのと同義だが、どの道この人の言うことに逆らうことはないのだから構わない、とブレイズは思った。
「彼らから見れば、確かに君たちは悪魔のように見えるのかもしれない。強くなったよ、本当に。今や君たちは……君はオーシアのエースだからね」
 大尉の言葉に、目を細めた応えた。
 エース。そんな気が今でもまるでしない。両手両足でも足りないくらい、敵を落としているのにだ。
 懸命に慰めている口の隙間から、抑えきれない吐息が溢れた。それと同時に、唾液が口の端を伝う。
「けれども、今は私のかわいいツバメだ。興奮したかい?」
 涼しげな視線が見下ろし、その問いかけに小さく頷いた。というより、小さくしか頷けなかった。
「自分で慰めることを許可しよう。続けなさい」
 許可が出たので、唇を使って大尉のそれを扱きながら、自身のものにも手を掛けた。正直なところ、頭がぼうとしてしまうくらい、そこが張り詰めて仕方なかったところだった。
 指先で己の敏感な部分を擦りつける。自分のどこが敏感なのか、それもこの目の前の大尉に教えられたことだ。目の前で自分の性的な部分が暴かれていく様は、ひどく背徳的だった。
 甘噛みしながらしばしそうしていたが、不意に頭を抑えつけられた。とは言いつつも、さほど強い力でもなかったが振りきることはしなかった。予想していた通り、酸っぱい液体が喉の方まで流れ込み、必死になってそれを嚥下する。
 良い子だと頭を撫でられれ、ぶるりと身体が震えた。直後、握りしめる手にべちゃりとした液体の感触。
 はあ、と息を漏らし、ハミルトン大尉のそれをしきりに舐めて綺麗にした。
 咥えていたものを離すと、大尉の手が伸びてブレイズの口元を指先で拭った。その目がふと、眇められる。
「ダヴェンポート大尉のことは、残念だった」
 思わず瞠目する。その話題には、敢えて触れられないとばかりに思っていたからだ。
「辛いだろう」
「……いいえ」
 明らかな嘘をつく。それが証拠に、ブレイズの目は逸らされていた。
 自覚している。わかりやすい嘘だなと。
 しばしの沈黙の後、先にその空気を破ったのはハミルトン大尉のほうだった。
「そうか。この戦争が、一刻も早く終結することを願おう。君のこれからにも期待しているよ。いよいよ次はクルイーク要塞の攻略になりそうだからね」
「……はい」
 難攻不落と名高い要塞の名を耳にした瞬間、ブレイズの表情がますます堅くなった。
 その表情を解すように、だろうか。ハミルトン大尉が頬をそっと撫でる。
「立って。隣に座りなさい」
 命令というよりは、指示といった感触の口調だ。ブレイズは言われるまま立ち上がり、逆らう理由もなかったので、言われるまま隣に座った。
 大尉の手が伸び、肩を抱き寄せられたのでそのまま体重を預けた。髪に触れる男の手が、子供をあやすような手つきで頭をそっと撫でた。
「たまにはこういうのも、悪くないだろう」
「……大尉がそれでよろしければ」
 こんな返答をすると、また「君は素直ではない」だのと言われるような気がしたが、ハミルトン大尉はそんな心の中も見透かしたかのように、薄く笑っただけだった。
 心地よい。安心する。抱く信頼感。
 それとは逆に、疑惑。安心への不安。芽生え始めた不信感。
 コーヒーにミルクを落としたかのような、白と黒がぐるりと混ざって溶けて、とうとうこの日も、聞きたいことを口にできないブレイズが、そこにいた。








見えない糸は黒く細く、だが硬く
Testament!!