ALLEN C HAMILTON, JUN 10 2010


 最初の頃は、名前も覚えていなかった。
 訓練を横目に見ていると、一人だけどこか冷めた顔をしている青年がいた。
 目を惹く赤い髪に、目は正反対の青だった。
 廊下ですれ違う度、気のなさそうな敬礼をする。顔は覚えたが、名前を覚えようと思うほど、興味は沸かず。
 ただ、ある日、彼は敬礼をしなかった。
 足を止め、呼びとめようとする。不敬を理由にどうこうしようというのではない。ただ、不思議だっただけだ。
 踵を返した瞬間、足元にかさり、と音がした。足元を見やると、くしゃくしゃに丸められた紙屑が落ちている。
「落としたよ」
 拾い上げ、それがただの紙屑ではないことに気付く。
 上質な厚紙だ。手触りが良く、さらさらとしている。内側はそれに反し、つるつるとしていた。
 つまり、写真だ。
 足を止めている青年の肩を叩き、顔を覗き込み。手を離した。
「大事な思い出は、捨ててはいけないよ」
 そう言い、彼の手に写真を握らせた。

 ―――別に、慰めたいわけでも、なんでもない。
 社交辞令と似たようなものだ。そこにこころなんて篭っていない。
 ただ、試してみたかった。



ALLEN C HAMILTON, SEP 22 2010


 かちん、と鍵をかけて近寄った彼は、僅かに俯いた。
 一応は、照れているのだろうか。よく見れば頬が僅かに赤い。腕を回し、座ったままの私の方へと引き寄せた。
「今日の演習は、どうだった?」
「別に、何もありません」
「私と話はしたくないか」
「そういう意味では…」
 否定の言葉を遮るように、服越しに臀部を撫で上げる。びくりと硬直した体の上で、唇を引き締めるのが見えた。
 警戒、に似ているかもしれない。彼のこの様子は。少し身を固くし、それでも黙って、ただ耐えている。
 私が、上官だからだろうか。それとも?
 服を緩めるごとに、微かに震えるのが可愛かった。拒絶しないのは、寂しさとそれ以外の何かのせいか。他の者と接している彼は、素直になれない少年と青年の間、といった体で、こんなにしおらしいのを見せたことがない。
 素直になれる相手も、いないのだろう。それがあの、握りつぶされた写真に現れていたのだ。
「大、尉…っ」
「そんな細い声で呼ぶな。燃えるだろう?」
 机の上に彼を座らせ、上着を緩めた後、下衣を剥ぎとって床に落とした。
「足を開きなさい」
 命令したのは、わざとだ、そうして彼自身に足を開かせる。表情を見やると、赤く染まった頬が横を向いていた。
 行為に及んだのは、一度二度のことではない。
 どんなことをするのか、を教えられた身体は、ソコを期待するように縮小し、また広がる。どう見ても―――誘っている風にしか見えない。
 緩めた服の隙間から手を差し込み、胸を撫でた。そのまま肌の上を滑り、腰を捕まえるように手を回す。覆いかぶさるように押し倒し、それを宛がうと、少し強引に奥まで押し込んだ。
「っ、う…、」
 休む間も与えず揺さぶると、噛みしめた唇から洩れる声が耳元で響く。
 場所を、気にしているのだろう。いつもそうだ。
 泣きそうなくらい濡れた目で、噛んだ唇で、机を掴む指は震えているのに、声を顰め、縋りもせずにただ、耐える。
 なのに、拒絶しないのは何故かと考える。その理由を想像しただけで、どうしようもなく、心地よかった。



DARYL "BLAZE" RODINA, SEP 22 2010


 事が終わり、敬礼の後に部屋を出た瞬間、大柄な人影に心臓が跳ねた。
「お、出てきたな」
 ヘッドホンを取り、人影が笑って言う。チョッパーが廊下に立っていた。ヘッドホンはポータブル音楽プレイヤーか何かだろう。ロック好きもここまでくると溜息ものだが、彼らしくもある。
「…どうしたんだ」
 聞かれて、いただろうか?
 声のトーンを落とし、尋ねると、彼は大仰に息をついて見せる。
「あんまりにも遅いからよう、見に来たとこだったんだぜ」
「…そうか」
 返事をし、内心とても驚いていた頭を冷ます。ヘッドホンをつけていたし、あの煩い音楽を聴いていたならば、部屋の中の音は聞こえなかっただろう。
 来たばかりなのか、ある程度待っていたのかは分からないが、こちらも大きな音や声は立てていないはずだ。―――あんなに必死に、堪えたのだから。
 踵を返し、部屋に戻ろうとすると、チョッパーもそれに習うのが足音と気配で分かった。

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聞こえないフリ
Noise and quietness.