DARYL "BLAZE" RODINA, DEC 15 2006


 突然やってきた男は、俺の父だと名乗った。
 金髪で長身の男だ。身体つきはがっしりとしている。俺に悪戯っぽい笑顔を見せた。
「…嘘だ。髪の色が全然違う」
「だよな」
 男は悪びれもせず笑った。ジョークか何かのつもりだったのだろうか。
 俺の赤髪は、男の金髪とは似ても似つかない。正直、この赤髪が母親の髪の色だと言われても、目の前の男と俺は実の親子でない自信があった。
 違うのだ。明らかに。
「でもな、お前の父親になりたいのは事実だ。なあダリル、俺の子供にならないか」
「信用できない」
 俺は即答した。
 物心ついた頃には身よりがなく、その手の施設にいた。両親の顔どころか名前も知らない。面倒を見てくれた人々は良い人たちだったが、それでも俺は捻くれて育ってしまったほうだと思う。こんな返事を、見知らぬ男にしてしまうくらいには。
「子供が欲しいだけならば、この施設には俺よりずっと「良い子供」がいる。俺である必要はない」
「お前でなきゃ、いけないんだ」
 そこでようやく、男は真剣な目を見せ始めた。
「昔、俺がまだ戦闘機乗りだった頃、お前の親父とは戦友だった。時間にすると短い間だけどな、相棒だった」
 思いがけず出た父親の話に、ぴんと気が張り詰めていくのが自分で分かる。
 男は、そんな俺の反応を確かめるように見やってから、続けた。
「その相棒にな、言われたんだ。息子がいる、ってな」
「…今更。死んだと思ってた」
 ゆっくりと被りを振りながら、俺は言った。信じられなかった。十七年間、父親は死んだと思っていたし、疑うことも知らなかった。
「俺も最後に会ったのは五年前だ。それからずっとお前を探した。名前だけを頼りにな」
「……父は今どこに?」
 振りしぼった勇気でそう尋ねたが、今度は男が被りを振る。
「さあな。その時も十年ぶりの再会だったからな、安否を知って、少し言葉を交わして―――それだけでなんだか、言葉がすーっと消えていっちまった」
 少しばつが悪そうに、男が頭を掻く。「ま、でも」と後に続ける。
「もしかしたら、こうしてる今、どっかの空を飛んでるのかも知れねえな」
 なんて続けた。
 沈黙が、流れる。俺は相手を威嚇するように、じっと視線で威圧した。男は口の端を僅かに上げている。

 信用は、できない。けれども。
 利用は、できる。

「なっても、いい。アンタの息子でも、なんでも。ただ条件がある」
「親子になるのに、制約だの条件だのは持ち出したくないが、なんだ?」
 問われ、息を吸った。吸い込んだそれを、ゆっくり吐くようにして、答える。
「戦闘機乗りになりたい。協力しろ」
 男が驚いたように目を見開いた。
「おい、本気か?」
「本気だ。…この施設を出たところで、軍隊にしろ傭兵にしろ―――なりたいものになるには、足りないものが多すぎる」
「はっきり言うな、お前」
 苦笑する男は、俺を子供としてしか見ていなかったが、それでも俺の言葉を真摯に受け止めた。
「空が好きか? ダリル」
「こんな世の中で、価値があると思う位には」
 嘘ではない。それも本心だ。
 男は「ふむ」と少し考えた。やがて、俺の前髪を掻きあげるように撫ぜる。
「よし分かった。息子の夢は応援してやらなきゃな」
 息子、という単語に、俺は少し渋い顔をした。








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