ALBERT GENETTE, SEP 27 2010


「そういえば、何故ブービーなんですか?」
 カメラマンの男が、それまで続けていた話の切れ間に、ぽつりと呟くように尋ねた。そこだけは不可解といった表情で、ウォードッグの隊長に聞いてみたくなったのだ。
 不精髭を撫でながら、大尉であるバートレットは「ん、ああ」と返事を返し。
「あいつはアレだ、ちぃと危なっかしすぎる」
「手を抜いてるって言っていた子ですね、あの赤い髪の―――。危ない飛び方をするような子なんですか?」
「いや…。だが例の国籍不明機を落とした時のあいつの飛び方、俺の教えた通りに飛んでいるくせに、たまに無茶をしやがる」
 ふー、と溜息を細長く吐き出し、
「ジョークの一つでも混ぜてやらんとな、真面目に無茶をしやがりそうでな。まだロックンロール野郎のほうが、俺としては安心できる。緊張してガチガチの教え子なら、こっちも扱いには慣れてるからな」
 バートレットはそう言い、「良く分からんやつだ」と呟いた。難しそうな顔をしていたが、少し笑って見せた。それも楽しいな、とでも言うように。



DARYL "BLAZE" RODINA, SEP 27 2010


 ナガセ少尉は随分と落ち込んでいると思う。
 理由は簡単だ。俺にでも分かる。バートレット隊長が、彼女を庇ったからだ。
 国籍不明機と交戦、撃墜したまでは良かったが、隊長は撃墜され、ベイルアウト。ほぼ同時に、宣戦布告があったのだ。
 ユークトバニア連邦共和国から、このオーシア連邦に。
 戦争が始まれば、今までされていた演習が実戦へと変わる。無人偵察機はともかく、国籍不明機と交戦した経験はあっても、戦争は初めてのことだ。
 宣戦布告が始まると、時間が早送りされているような忙しさに見舞われた。戻って一時間もしないうちに、今度はセントヒューレット軍港が奇襲を受けているということだった。
<<私が後ろを守る。いいわね、ブレイズ?>>
 無線からナガセ―――エッジの声が聞こえた。いいわね、も何もない。サンダーヘッドが「命令に従え」と言うのも断り、俺を一番機に推したのだから。
<<後で後悔しないのなら>>
<<しないために、二番機になるのよ>>
 感情が飛び出そうになるのを抑えながら、といった様子でエッジが言う。恐らくは、俺でもダヴィンポート少尉―――チョッパーでも、どちらでもいいのだとは思う。彼女がそうしたいなら、別にそれでも構わなかった。

 ―――相棒は、そうだな。本物のエースだったな。
 ガルム隊で組んだんだ。あいつが一番機で、俺が二番機だった。

<<俺はどん尻でいいよ>>
 俺の思考をかき消すように、チョッパーが声を挙げる。まあ、どうしたってこの展開になるわけだ。
<<交戦を許可する>>
 AWACSのサンダーヘッドが告げた。








彼、について。
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