DARYL "BLAZE" RODINA, SEP 27 2010


「お? なんだこれ。家族からの手紙か?」
 ゴミ箱に捨ててある封筒を、チョッパーが拾い上げて言った。
「おいブービー、間違えて捨てちまったのか? 未開封じゃねえか」
「ゴミ箱から拾うな」
 宿舎に戻り、ロッカーにジャケットを仕舞うと、俺は顔をしかめた。
 ロッカーの鏡越しに映るチョッパーが、封筒を裏返したりするなどして眺めている。
「差出人は…ラリー・フォルク? なんだぁ、友人か」
「違う」
 返答は即答。ぱたん、とロッカーを閉じた直後、紙を破く音にあわてて振り返った。
「おい!」
「えー、なになに? 『ダリル、元気にしてるか? 父さんは元気にやってる。なんて、こう言うとお前はまた渋い顔をするかも知れないな』―――ん? 父親? にしてはファミリーネームが違うぜ?」
「そういうところは良く見てるんだな。いいから寄越せ」
「チョッパー、ブレイク!」
 便箋を奪い取ろうと手を伸ばすが、チョッパーの方が身長が高いだけに、するりと回避された。
「おい!」
「まあまあいいじゃねえかよ。読まずに捨てたと知っちゃ、パパがかわいそうだぜ?」
 完全に弄びながら、やがて後ろから抱え込むように片手を封じられ、まるで身動きが取れない。身長の差もあるが、単純な腕力の差も大きいのを思い知る。
「えーと…『なかなか返事がくれないから心配だが、大きな病気とか怪我には気をつけろよ。もっと素直に甘えていいんだから、寂しい時や何かあった時は連絡するようにな』―――なんだ、いい父親じゃねえか」
「チョッパー!」
「んー? しかしラリー・フォルクってどっかで聞いたような」
「チョッパー!!」
 堪りかねた俺の肘鉄が、チョッパーの胸を押した。
「って!」
 突き飛ばされ、便箋が宙に舞う。倒れるチョッパーは、しかし俺の手首を離さなかったせいで、縺れあうようにベッドに倒れこんだ。
 ベッドの端に頭を打ち付けそうになったが、腰に回された手がとっさに抱きこんでくれたおかげで、頭を打たずに済んだようだった。
「ったく、危ねーぞブービー、パパに怪我には気をつけろって言われたばっかだろ」
 上半身を起こすと、間近に迫っていた顔がそう言う。慌てて離れてベッドから降りると、
「お前に、何が…っ」
 そう言いかけ、息を飲んだ。奥歯をぎりぎりと噛みしめ、逃げるように部屋を出た。
 顔の半分を手で覆い、深呼吸を二、三度繰り返す。

 お前に何が分かる? なんて。言えなかった。
 俺は、意地を張っているだけだ。今さら家族ごっこなんてしたくないと、虚勢を張っているだけだ。
 それでも、甘え方なんて必要ない、知りたくないと思っていた俺には、
 それを認めることなんて、できなかった。








曲がった針金
He can't become obedient.