DARYL "BLAZE" RODINA, OCT 10 2010


「なんだ、お前そんな趣味あったのかよ」
 突然、ベッドに寝そべったブレイズの真上から声がかかり、驚いてそちらを見やった。
 チョッパーがそこから、ブレイズとその手の中にある小箱を見ていた。決して中身を見せたことがなかった木箱である。中には、男の私物にしては些か可愛らしい、ガラス製の小さな置物や小さな鈴、握りこんでしまえるほどの大きさをしたオルゴールや、小瓶に入った金平糖があった。
「…いつのまに入ったんだ」
「おいおい。ただいま、つって、声かけたのに、気付かなかったのはそっちだぜ?」
 そう言われてしまえば、それ以上責める言葉をブレイズは持っていなかった。同室である以上、入ってくるのを咎めることもできない。
 本当は見られたくなかったが、見られてしまっては仕方がなく、しぶしぶと小箱に蓋をしてベッドの下に置く。どうも先日の手紙といい、一人で見たいものに限って、見られてしまっている気がする。
「何が言いたいんだ」
「可愛らしいものが好きなんだと思ってさ。いつもつんけんしてるのに、意外なもんだ」
「…悪いか」
 そう言われるのが予想できたから、誰にも見せなかったんだ。そう思っていると、チョッパーは被りを振った。
「いーや。逆に、ちょっとだけ安心すらしたんだぜ。お前毎日、人生下らない、って目してるからよう」
「概ねその通りだけどな」
「ロックでも聴くか?」
「聴かないって言っても聴かせるんだろう」
「分かってらっしゃる」
 響くサウンドに、溜息をついて仰向けになった。ロックは趣味ではない。ブレイズにとって音楽は興味の対象外で、どんな曲も関心を惹かないが、こういった煩いのは、どちらかと言うと苦手なほうだ。
「で、あの箱は宝物入れとかそういうのか?」
 もう忘れたと思っていたのに、予想外に話題を掘りかえされた。
「そうだよ」
「もしこの基地が襲撃されても、戦闘機の中に持ち込めるな。俺様のロックコレクションたちは、ちょいと持ち運ぶのは難しい量だからなぁ」
「全部持ち運ぼうとするから無理なんだろう。ひとつにしておけ」
「俺様に、こいつらの中から選べってか? 隊長殿は無茶を仰るぜ」
 大仰に肩を竦めて見せたチョッパーが、突然「そうだ」と声を張り上げた。
「なぁブービー、俺様と宝をひとつ交換しねえか。お互い逃げ出すときに、そいつを持って逃げ出すって寸法だ。名案だろ」
「…まあ、CD一枚くらいなら」
 また変な提案をした、と思いながらも、渋々ブレイズは頷いた。ご機嫌な様子で、チョッパーはいそいそとチェストを漁る。CDか何かのケースが山ほど見えた。
 やれやれと、ベッドの下から箱を再び取り出し、中から二つの小さな鈴がついているキーホルダーを取り出した。こいつが一番手頃だろう。鍵か何かにつけておけば、いくらチョッパーでも失くすことはしないだろう。…多分。
 CDを預かる代わりに、その鈴を手渡す。何の曲かは知らないが、相当お気に入りの部類なのか、だいぶプラスティックのケースが傷んでいる。こいつ、戦争が終わるまで、この曲を聞けないんじゃないだろうか。そう思いながらも口にはしない。
「一応お前の宝だからな、なくさないようにキーにつけとくか」
「…もう、好きにしろ」
 片手で頭を抱えてそう言うと、チョッパーはいそいそとポケットから取り出した鍵に、鈴をつける。宝物を他人に預けるのは、少々気が乗らなかったが。

 こんな、状況だ。
 自分がいつ撃ち落とされるとも知れない。
 もしも自分が死んだら。チョッパーは意外に義理固いところがあるから―――性格がまるで違うのに、同室でそこそこ上手くやれているのは、そのお蔭なのかも知れないが―――宝物の入った小箱が処分されても、きっと、この鈴を少しは手元に留めてくれるだろう。
 こんな小さなものでも、そうして残るのならば、こういうのも悪くはないと、思った。








別れの準備
I's time to go.