DARYL "BLAZE" RODINA, OCT 22 2010


<<どこまでも俺たちを遊ばせないつもりとは。基地司令のクソ親父め>>
 自重しないチョッパーの無線が耳に入った。
 ユークトバニアの軍事活動が縮小傾向にあるとは言え、イコール戦争終結というわけではない。エイカーソン・ヒルの北部沿岸での哨戒任務が下された。ここではオーシアの自動防空システム―――AAシステムにより味方機が識別され、それ以外の機体は自動的に撃ち落とされる仕組みだ。
 範囲外を哨戒するだけの任務だが、重要なものだ。
<<頼りにされてるんですよ、チョッパー中尉を。昇進おめでとうございます>>
 グリムがいいフォローをする。だがチョッパーはいまいち納得していないようだ。
<<なぁんか嬉しかないねえ>>
<<嬉しいも嬉しくないもないだろう。任務だろう>>
<<はいはいっと。ったくうちの隊長はカタブツだぜ>>
 ブレイズも一言言うと、チョッパーがため息交じりで呟いた。ナガセがくすくすと笑うのが少しだけ聞こえる。
<<今どこにいるの、おふたりさん>>
<<そっちの500キロ南だ>>
 ザザ、と無線のノイズ混じりにチョッパーが答えた。二機ずつに隊を分けたため、ブレイズはナガセとペアだ。
<<……ねえブレイズ。少し怒ってる?>>
<<何を?>>
 ナガセの言葉に、淡々とブレイズは返答した。
<<あなたを隊長に推したこと。強引だったから>>
<<後悔しないなら、と言ったはずだ。気にしてない>>
 これは本当だった。それにさらに言葉を足すならば、自分の父親とどこか張り合う気持ちもあった。だから一番機になることを拒否しなかったのだ。
<<それに、正直良かったとも思ってる>>
<<え?>>
<<割と、仲間もいいもんだな。面倒でもあるが>>
 ほんの少し見せた本音に、ナガセが言葉を失った。言わなければ良かったか、とブレイズは思いなおしたが、言ってしまったものはもうどうしようもない。それに嘘ではないのだ。この多少面倒な仲間らのおかげで、悩み事もほんの少しだけ忘れれる気がした。
<<……そう>>
 沈黙の後、ナガセが呟いた。決して冷たい印象ではなく、微笑みながらそう呟く彼女が頭の中に浮かんだ。
<<……破損した。損傷は軽微―――>>
<<……なんだ?>>
<<通信中の機。所属と損害状況を知らせよ>>
 ミッションモードに入ったナガセが冷静な口調で問いかけた。
<<やっと応答があっ……。こちらはオーシア空軍輸送機、マザーグース・ワン。中立国ノースポイントへ向け飛行中の……。無線の出力を最小限に落としている。もっと……接近してほし……>>
<<相当出力を落としてるな……。行こう>>
 無線でナガセに呼びかけ、機体を傾けて見える輸送機に横腹についた。流れてくる無線が小さいなりにも聞き取れるようになる。
<<当方極秘任務のため、地上の自動防空システムへの味方識別伝達が伝わらず、自動照準ミサイルに攻撃された。かろうじてかわしたものの、当機のレーダーシステムは破壊され残りのAAシステムの位置が分からない>>
<<極秘任務……? ということはAAシステムにそちらの機が捉えられると撃ち落とされる>>
<<そういうことだ。出来ればAAシステムを避けるコースを誘導して欲しい。被弾でこちらの機動性はガタ落ちだ。どうか頼む>>
 言われてみれば、輸送機はふらふらと頼りない。あまり速度も出ておらず、このままどこまで飛べるのか些か疑問だった。
<<サンダーヘッド>>
<<新しい任務だ。AAシステムの警戒網範囲をレーダーに表示する。輸送機をエイカーソン・ヒルまで護衛せよ>>
<<了解>>
 返答する頃には、レーダーにAAシステムの範囲が表示されていた。すぐさまこの輸送機を連れて飛べるルートを頭の中でシミュレートする。あの様子では直進以外は相当な負担になりそうだ。
 そう思っていると、チョッパーの無線が入ってきた。
<<…ああ、防空司令部がそっちへ向かう敵編隊をレーダー捕捉したようだ。久々に海を越えて来やがった。警報がピーピー鳴ってるが、間に合うのはオイラたちだけだ>>
<<まさかこの輸送機を?>>
<<かもな。そっちのバックアップに駆けつけてやるからな、待ってなよ、ベイビー>>
<<頼んだわ、チョッパー、グリム>>


 そこからの話しは大変だったが簡単だ。
 AAシテスムの合間を縫いながら輸送機を先導し、やってきた敵機を合流したチョッパー・グリムと共に迎撃。
 輸送機は無事に着陸した。輸送機に紛れていたスパイにより機長が死亡……「積み荷」を自称する男の秘書が不時着をするトラブルはあったが。
 中立国で話し合いをするために運ばれる「積み荷」の素性は直接口にはされなかったが、察するには十分すぎた。オーシア空軍8492飛行隊に輸送機を任せ、ブレイズたちは帰還した。
 デブリーフィングの後、ふとブレイズは手元の報告内容を目で追った。

 ―――中央本部から通達。今作戦中に遭遇・不時着した輸送機の乗員は、第8492飛行隊によって救出された。本件に関する情報は以上である。
 以上である。

 覚える違和感。そして8492飛行隊。まだ、忘れていないその数字。どこで見たのかもよく覚えている。
 8492、と頭の中で繰り返し、ブレイズはその場を去った。








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