LARRY "PIXY" FOULKE, NOV 25 2005


 あいつか? ああ、知っている。話せば長い。
 知ってるか? エースは3つに分けられる。
 強さを求める奴、プライドに生きる奴、戦況を読める奴。
 この3つだ。
 奴は―――、

(奴らは―――、)

 確かにエースだった。


 最初に出会ったのは、雪の日だった。
 奴に関して、「筋は良かったな」と、俺はインタビューの際に答えた。
 あれは、奴としては、草原をスキップするくらいの、軽い戦いだったに違いない。
 記念すべき最初のミッションは、決して楽なものじゃあない。むしろ起死回生の戦いだった。厳しい、戦いだった。
 何しろ俺達の雇い主である、ウスティオ共和国は、領土をほぼベルカにぶんどられていたんだからな。
 このインタビュアーが奴を見たら、きっと目ぇ丸くするんだろうな。あいつなら、十年経った今でも、ちっとも変わってないだろうしな。
 奴がその力を徐々に露わにしだしたのは、あの集中砲火の嵐の中だ。
 ハードリアン・ラインの時だったな。
 鎮圧のための戦いと言えば、聞こえはいい。だが、侵略戦争へと変わっていく、そんな感覚を覚え始めた時だ。



LARRY "PIXY" FOULKE, MAY 17 1995


 何故当たる?
 ひとつ間違えば、そう声に出してしまいそうだった。
 グラティサントの防衛は噂どおりだった。山全体から攻撃されているようだ、なんて誰かが言ったが、まさしくその通り。
 まるで土砂降りのように濃い散弾の中に、まっ先にサイファーが突っ込みやがる。
 蜂の巣にされる、と思ったんだが、サイファーのやつ、低空飛行なのにすごい速度で飛ばすんだ。
 さらに敵施設をどんどん破壊していく。
 何故当たるんだ? そして何故、あの濃い弾幕に掠りもしない?
<<ガルム2、下を>>
 簡潔な指示は、いつものことだ。
<<何だ?>>
<<ハエ落とし>>
 そう言い残すと、それまで黙々と潰していた対地への興味を失ったかのように、空へと舞い上がる。トランポリンで跳ね上がるような、急上昇。
 相棒は、目についたもの全て焼く。
 いつも乗るのはFoxhound。猟犬にしては優秀すぎる。やたらに高速で飛びまわる割には、確実に沈めていくんだからおっかない。
 食らいついたら離さない、不意打ち追い打ちも上等のいい性格をしてやがる。
 それが俺の相棒。ガルム1、サイファー。本名はイヴァン・ロディナ。
 ただ、それが―――。


 ミッションも無事に終了し―――もちろん大勝で、だ―――、ハンガー内であの薄灰色の頭を見つけた。
 相棒は小柄だ。二十二歳の男にしては、170センチは小柄としか言いようがない。
「サイファー」
 声をかければ、振り返る。ガラス玉のような青い目は、まるで俺の遥か遠くを見ているような錯覚を覚える。
「腹減ったな。なんかつまみながら、ホットラムでもいこうぜ」
「ああ」
 こくり、と頷く様はどこか機械的だ。
 サイファーは、常時この調子だ。
 心がないんだぜ、なんて蔭口を叩く奴もいるくらい、まるで意思表示というものをしない。
 感情がないなんて、そういうわけでもないだろうが、表にまるで出さないのには代わりない。
 空ではあんなに暴れ焼きつくすというのに。
 いや、だからなのかも知れない。落とす敵のことを逐一考えていては、自分が落ちてしまう。相棒の純粋な強さは、そんなところから出ているのかもな、などと思う。
「ん…」
 呟いたイヴァンの眼の奥、灰色の機体から降りる、黒髪の男が目に入った。
 グラオ隊二番機。TACはシュヴェルト。無駄のない動きをする、グラオ2のパイロット。
「キーア」
 相棒が名を呼んだ。俺ですら、本名で呼ばれるのは数えるほどしかないというのに。
 グラウ2―――リーンハルト・キーアは、鳶色の目を細めてイヴァンを見た。そして次の瞬間、俺の方に気付くなり、眉根を少し寄せた。


 後の、円卓の鬼神。
 この時にはもう、始まっていた。








空中ブランコ
Zwei Stuecke Federn