ALEX "KUGEL" GREINER, JUN 27 1995


 グラオの面子は、つい少し前までは五人とも揃ってたのに、今は俺とグラオ5だけになっちまった。
 でも俺は、正直言って少しほっとしてたりもする。グラオ1…つまりウチの隊長であるシュペーアが、紅一点の姉さんであるグラオ4のボーゲンとイイ仲なのは、みんなが知ってたことだ。
 シュペーアが作戦中の怪我で済んだことも、姐さんと一緒に引退することにしたのも、俺は心から喜んだ。もちろん寂しくない訳じゃあないが、未来があるカップルを戦争に関わらせるのは、―――分かるだろ?
 キーアは鬼神になって、元の鬼神様はキーアの部屋から空ばっか見てるときた。別にいいんだけどな。グラオ隊は元々偵察だの哨戒だのが中心で、遊撃するほどでかい規模の作戦は、「あれ」以来多くなくなった。
 作戦がある度、キーアは飛んでいって、暇している俺やカノーネ―――まあグラオ5のことなんだが―――が、イヴァンの面倒を見るってパターンになってきた。
 ほっとくと何時間でも空を見てる。疲れるとベッドで死んでるみたいにじっとしてる。大人しくて手のかからねえぇちびだ。
 まあ、カノーネもガキみたいなもんだから、俺から見たらまとめてちび、だ。そのカノーネは、どうやらイヴァンとは合わないようで、最近は姿を見せなくなった。
「なぁ…、ずっと外見てて疲れないか?」
「問題ない」
 さらりと、返答。まあ、本人の好きにさせるか、と広げていた新聞に目を落とす。
「それに」
 と、イヴァンが空を見上げたまま続けた。
「全部空にある」
「全部?」
「意味も、キーアも、―――ピクシーも」
「生存は期待しないほうがいいって、イーグルアイに言われなかったか?」
「死体が上がっていない。イーグルもだ」
 現実的な意見、というよりは。信じたくない心の表れのような気がした。
 新聞をばさりと横に置き、窓際に近寄って鉄枠に手を置き、肩越しに空を見る。
 決して快晴ではない。曇り空が蠢いている。キーアが見えるわけでもない。
 ちびを変えようと、妖精が何やら心を砕いていたようだが、その妖精だって戦闘機乗りだ。彼らも、俺もキーアも、最後の繋がりは空だけだ。だから、空を眺めるんだろうか。
 まるで、故郷に帰りたがってる孤児みたいだな、と思う。
 その薄灰色の頭を撫で、やんわりと窓際から引き離した。
「顔色が悪いな。キーアが戻ったら起こしてやるから、少し寝ろ」
「…眠るのは嫌だ」
「意思表示はいいことだけどな、お前に何かあったら、俺がキーアに怒られる」
「…わかった」
 しぶしぶといった様子で、もそりとキーアのベッドに潜り込んだ。あいつの部屋なんだから、あいつのベッドで当然だ。
 被ったシーツの下で、くぐもった声が聞こえた。
「クーゲル」
「ん?」
「あんまり優しくしないでくれ」
 予想外のセリフに、目を瞬かせ。
「どうした一体」
「ピクシーを思い出す。胸が苦しい」
 何を言いだすのか、とセリフをもう一度脳内で再生させた。
 そしてふと、気付く。そういえばかの妖精も、金髪で俺くらい短い髪だった。
 似ていて思い出すってとこか。いなくなった奴に優しくされているようで辛い、と。
 良く見ると、シーツを握る手が震えている。
 手を握ろうと思って、やめた。








投げ捨てられた賽
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