LARRY "PIXY" FOULKE, JUN 30 1995
脳裏にこびりついて、離れない。
「あの朝」、開いた扉から出てきた、相棒の姿。
「サ―――」
声をかけようとした、瞬間、凍りついた。
相棒の薄灰色の髪に伸ばされた手。ふわりと撫でる男の手。降り返る相棒、頷く横顔。
あの、部屋は。
どくん、どくん。
サイファーの横顔、頷く角度、見上げて喋っている、その唇の動き。
どくん、どくん、どくん。
誰を見ている? 誰に応えている? 誰と喋っている?
どくん、どくん、どくんどくんどくん。
あの部屋は、知っている。
あいつが今、見ているのは俺じゃない。
相棒である、俺より他のやつを見て、
なあ。一晩、ずっと、そこに、いたのか?
「ラリー?」
いつの間にか横にいたウィザード1―――ジョシュア・ブリストーに、肩を叩かれ心臓が口から出そうになった。
「…いや、なんでもない」
吐息と共に言葉を吐くと、俺を「ここ」に誘った男は息をついた。まるで、「予想していた」とでも言うように。
こいつは昔からそうだ。どこか人を見透かしたような、大仰な振る舞いと言い回しを好む。
「かつての相棒と対峙するのは、気が重いか?」
「………」
「黙秘か? 黙っていても良いことはないと思うぞ」
肩を寄せ、魔術師は声を顰めた。広い廊下ではある。だが別に、誰がいるというわけでもないのだが。
「諦めろ、ラリー。鬼神は我々にとって存在していては困る。勿論お前にとってもだ」
「…分かってる」
「聞けば、まるで機械のような男らしいな。無線では随分と寡黙だったが、あの飛び方はなるほど、機械とは言いえて妙じゃないか」
「…ジョシュア」
怒るぞ、と言外に示し、ようやくウィザード1は肩から手を離した。
「鬼神が飛ばずにいてくれれば、私としても面倒がなくて良いんだが、そうも行くまい」
ぽん、と肩を叩き。「先に行くぞ」とウィザード1は廊下の奥に消えた。
いつのまにか歩みを止めていた、俺の脚が、びくりと動く。
飛ばずにいてくれたら? それは無理な話だ。
あの、サイファーだぞ。ただただ、敵を粉砕するだけの男だ。あのグラオ2と共に、そうして俺の前にも現れるだろう。ジョシュアがV2を握る限り。俺がここにいる限り。
ジョシュアの誘いに乗ったのは、後悔はしていない。
侵略に染まりつつある戦況に心を痛めるのは辛い。そしてそれ以上に…、俺から離れゆく相棒を、見ていられなかった。
すべてを破壊して、その先に創造があるというのなら、この絶望的な気持ちもゼロに戻るだろうか。
そうすれば、彼は飛ぶ空を失うだろうか。そしてまた、次の戦場へと行くのだろうか。
そこまで考えたところで、仄暗い思考が、頭を渦巻いた。
機械? いいや、奴は人間だ。落とすことはできずとも、V2発射を防がれなければいい。
そうして何もかもがゼロに戻った時には、あいつを迎えに行けばいい。核を目の当たりにした時すら、敵を撃ったサイファーのことだ。壊されたものに執着することなど考えつかない。きっと俺と来るはずだ。
俺のことを教え、俺といることを教えればいい。
これは、始発点に立つための、必要なことだったのだ。
「…よく、見てろよ。サイファー」
お前のために、この世界を壊す。
おもいゆがめど
Die Geschichte vom Ritter.